「人類資金」(阪本順治監督)

 M資金詐欺を専門とする詐欺師・真舟(佐藤浩市)は、ある日一人の若い男から“財団”の名と共に同行を依頼される。真舟の父は、M資金の真実を調べているうちに死んだ。その男・石(森山未來)が口にした組織の名は、父が調べていたものと同じだった。
 半信半疑ながらも、石の指定したビルへ向かう真舟。しかし石と落ち合った途端、彼らは高遠美由紀(観月ありさ)率いる“市ヶ谷”の男達の襲撃にあう。古い地下道や地下鉄の線路を利用して逃げ延びた真舟は、石から“M”と名乗る男(香取慎吾)とその部下の本庄(岸部一徳)に引き合わされる。
 “M”達からの依頼は「M資金を盗みだして欲しい。報酬は50億」。
 今や投機ファンドに成り果てたM資金の原資分10兆円を盗み出し、世界の“ルール”を変えると“M”は言う。「真舟さん、僕と一緒に、世界を救ってみませんか?」
 真舟達はM資金を管理する財団の極東支部であるヘッジファンド「ベタプラス」代表・鵠沼英司(オダギリジョー)が密かに巨額の負債を抱えていることに目をつけ、彼をカモにしようとする。
 一方、アメリカ側でM資金の実権を握るハロルド・マーカス(ヴィンセント・ギャロ)の命を受け、清算人(=暗殺者)・遠藤(ユ・ジテ)が動き出した。
 “金”を相手にする真舟達の計画の行方は、思わぬ方向に転がり始める……。


 阪本順治監督と福井晴敏さんによる、映画と小説の同時進行プロジェクトの、スケールの大きいエンタテインメント作品。
 私は小説版(現在4巻まで)を先に読んでいたので、途中までの物語はだいたい把握した上で見ました。だからなのか、金融のことはともかく話の流れはそんなにわかりにくいことはありませんでした。
 この物語は、ある意味阪本監督と福井さんの祈りなのかな、と思ったりもします。確かに、後半になって財団の長である笹倉暢彦(仲代達矢)が情に流された感じになっちゃったり、退場しかけてた国連の代表があれくらいのことで話を聞きに戻って来るかという疑問が出たりもしますが、これが祈りであり希望の一つの形を示したものであれば。
 どこか閉塞感を持った今の世界が、この先こうあればいい、という希望。持つ者だけが富を独占し、ただ儲けることだけを目指して突っ走るより、持つ者が持たざる者に適切に富を分け与え、共に成長することができれば。環境さえ整えてやれば、貧しい者であってもその中から才能のある者はきっと現れる。
 そんな方向へ行きますようにという、そんな祈りのような希望。
 石君の、国連(本物の国連!)でのあの堂々とした演説を見て、そんなことを思ってしまったのでした。このシーンの森山未來君、良かったなあ。


 個人的には、浩市さん・香取君・オダギリという「新選組!」出演者が一堂に介したシーンでちょっとニヤついてしまったりして(笑)。特に香取君は「理想のために突っ走るリーダー」なんで、ちょっとかっちゃんに近い(笑)。
 社会派な作品ではありますが、特に浩市さんの真舟やオダギリの鵠沼なんかはキャラにどこか軽妙さや可愛げがあって良かった。というか最近のオダギリの役は「舟を編む」の西岡君も「八重の桜」の襄先生もこの作品の鵠沼君も、みんなどっか可愛いんですがどうしたことだ。
 どうでもいいけど、一徳さんが死ぬシーン見ると未だに「官房長!」と心の中で叫んでしまう「相棒」脳の奴がここに。

 世界と、お金の流れが、よい方向に変わればいいなあ。