「名探偵コナン ゼロの執行人」(立川譲監督)
実は公開日当日に観に行って、今日二回目の執行だったわけですが。
脚本の櫻井武晴さんが本領発揮しまくって、「相棒」でもやれそうな本格的公安警察ストーリーで、二回見てもやっぱり面白い。「子供には判らないんじゃないか」という声もあるけど、特撮番組にだって一般ドラマと同じような演出・脚本で背伸びが必要な「仮面ライダークウガ」なんて作品があるんだから、全然大丈夫でしょ。
二回目だと、前回より細かいところに目が行ったりしますね。風見さんが毛利探偵事務所を捜索してる時、ちらっと赤いスマホを持ってるのが見えたり、ストーリーが頭に入ってる分各キャラの心の動きとかが見えたり。ていうか一回目でも思ったけど、風見さんが毛利のおっちゃんを逮捕するシーン、見事なまでの転び公防だな!
安室さんてか降谷さんが全体的にかっこいいし、ポイントとなる様々なシーンがそれぞれとても美しいんですよね。夜明けの電話ボックスとか、雨の日比谷公園とか、日本橋の密談とか。
以下、ネタバレあり。ちょっとした推察(妄想?)です。
今回初登場の黒田管理官。原作では黒ずくめの組織のNo.2であるラム候補の一人と目されている人。
この人、とあるシーンで何事か言っているが観客には聞こえない台詞があるんですよね。これ、「バーボン」と言っているというツイートを見まして、確認してみました。
……確かに、あの口の動きは「バーボン」だ。
バーボンは、今回の主役降谷さんの黒ずくめの組織でのコードネーム。ではこの人はラムなのか。
個人的には違うと思います。これを言った相手が降谷さんなのは話の流れからして確かですが、あの場面で「ラムとして」「バーボンに」指令を下す必然性が薄い。
ではこの人は何者か。おそらくは、降谷さんと風見さんの日本橋の密談の中にちらっと出て来た「裏理事官」。警察庁公安の秘密組織「ゼロ」のトップ。つまりは降谷さんの上司ですね。
では何故「バーボン」の名前を出したか。このシーンが出て来たのは、阿笠博士のドローンに爆薬を積んで、警視庁へ落下する探査機「はくちょう」のサンプルカプセルの軌道をそらそうとしているその時なんですよね。……で、思った。これは、この作戦が失敗した時のための「バーボン」呼びなのではないか。
観客はメタ的に失敗などないことを知っていますが、これ、もし失敗したらカプセルは警視庁直撃、あの場にいた全員ただでは済みません。周辺にも多大な被害が出るはず。しかもやっていることは公安による違法作業。だが、その場にいるのが公安警察官ではなく、非合法組織の一員であれば?
つまり、あの作戦が万一失敗した場合は、「非合法組織の一員・バーボンによるテロ行為である」という体裁を取るという心算が黒田さんにはあり、降谷さんもそれを承知で爆発物を操作したというシーンなのではないかと。
だから、あれが失敗して降谷さんが殉職するようなことになれば、彼は公安警察官の「降谷零」としてでも探偵でポアロのバイトの「安室透」としてでもなく、黒ずくめの組織の一員としての「バーボン」として処理されていたのではないかと思うわけです。もちろん降谷さんはそれは承知の上だったと思うし(「了解」と普通に返答している)、任務の為に死ぬ覚悟なんかとっくにしているだろうし、自分の違法作業のカタをそういう形でつける覚悟もしているでしょう。
要するに、黒田さんは「ぬかるなよ、……(バーボン)」という台詞の裏で「これに失敗したらバーボンとして死ね」と言っているという。我ながらそこまで考えて、なんか痺れた。これめっちゃハードボイルドだ。
子供の頃に見ていた時代劇に「大江戸捜査網」ってのがあって、その中で流れるナレーションに
隠密同心、心得の条
我が生命、我が物と思わず
武門の儀、あくまで陰にて
己の器量を伏し
御下命、如何にても果たすべし
なお、死して屍拾う者無し
ってのがあって。これ、子供の頃はわけもわからずに真似してたりしたけど、今改めて見ると結構シリアスな言葉だよなあ。
これ、潜入捜査官としての降谷さんにも通じるな、と何となく思いましたとさ。